Introduction イントロダクション

今年の中島みゆきに新しい“熱華”が加わった。彼女はすでに2009年に紫綬褒章“も受けているものの本物の熱章の話ではない

彼女がももいろクローバーzに提供した「泣いてもいいんだよ」5月にシングルチャート一位を記録した。
すでに自分の名前でもソロアーティストで唯一70年代・80年代・90年代・00年代と4つの時代に一位を記録。今後、朝ドラの主題歌として流れている「麦の唄」が一位になれば前人末踏の記録を更新することになる。

まさに日本を代表するシンガーソングライターである。

流行の波は早い。アナログがCDになり、更に配信へと音楽の聞かれ方も劇変している。それだけ長く活躍し続けることがどれほど異例なことか。同時代に登録したアーティストを思い浮かべてみれば歴然ではないだろうか。

彼女が書いてきた作品は、時代によって作風が変わっている。70年代に一位になった「わかれうた」や80年代の一位「悪女」のような失恋した女性の心情を歌っていた頃の彼女は“わかれうたうたい”と言われていた。90年代の一位「空と君のあいだに」や旅人の歌」は、女性の恋愛ソングではない。男女を超えた人間の祈りや願い。00年代一位「地上の星」が中高年男性の応援歌として話題になったことは記憶に親しい。
時を超えるもの。どんな時代でも変わらず人々の心に流れている感情。そして、どんな時代にも存在する不条理。人を愛すると言う気持ちや健気に一途に生きようとしている名もなき命。彼女の歌は、時には装いを変えつつも、それらを繋ぎ合せて1つの河のように流れている。その歌が発表された年代や、その時の環境に左右されることなく、新しい時代の聞き手を獲得しつつ脈々と生き続けている。今年も配信チャート上位にランクされている「糸」が良い例だろう。

彼女の歌の根底に一貫してあるのは、傷ついた人たちや思うような人生を送れなかった人の“再生”の願いだ。75年の代表曲『時代』で歌われた“今日別れた恋人達”のいつの日にかの“再生”―。デビュー以来、音楽的な成長や深化を遂げる中で、ずっと同じ事をうたい続けていると言って過言ではないと思う。
今年の11月に発売された新作アルバム『問題集』は40枚目のオリジナルアルバム。これだけコンスタントな創作活動を続けるアーティストは二度と現れないだろう。